哲学の並木道

自分のための自分語りブログ

「すべてがFになる」原作小説感想

最近、モンハンをやらなくなってしまったのとお金がないのとで、休日の自由時間を持て余し気味です。

そこで、読書好きの同居人に本を借りて読むようになりました。

 

今回感想を書くのは、ドラマ化して話題になっている「すべてがFになる」です。

読み終わった後、どうにも本作のことをぐるぐると考えてしまうので、ブログに出力してしまおうと考えました。

 

犯人ネタバレ含みます。

原作未読でドラマを追っている方は、引き返すが吉でしょう。

(ちなみに私はドラマは見ておらず、どういう話をやっているのか知りません)

 

ちょっとだけ専門知識が必要

プログラマ、いえ、情報分野をかじったことのある人であれば、「BとDが孤独」の意味は容易に理解できるでしょう。

また、「すべてがFになる」のFから16進数のFを連想する人は多いと予測しています。

逆に、情報分野に疎い人からすると、トリック解明のくだりは理解しづらいのではと思います。

文章は読みやすいですが、所々で専門用語が出てくるため、やや人を選ぶ小説かもという印象です。

 

読者にやさしい西之園萌絵の存在

推理を引っ張っていく中心人物となるのは犀川です。

ですが、もし本作の主人公が犀川ひとりなら、読者おいてけぼりの難解な小説になったことでしょう。

専門的な分野を扱っておきながら意外にも読みやすいのは、萌絵の存在に起因しているのではないかと思います。

 

萌絵は決して凡人ではありませんが、犀川や四季に比べるとより読者に近い立ち位置にいて、読者が感じる疑問や不可解さを代弁してくれます。

それにより、他の登場人物が噛み砕いて説明する機会が生まれ、それがそのまま読者への説明となるのです。

萌絵は、物語の難解さを緩和するための緩衝材の役割を担っていると感じました。

 

ただ、私としては、読者に近い立場のキャラにはもっと凡人であってほしかったという思いがあります。

もっと萌絵に感情移入できればより楽しめたと思うのですが、お金持ちで世間知らずのお嬢様という設定から、あまり感情移入はできませんでした。

 

「天才・真賀田四季」というキャラ付け

真賀田四季の「天才」というキャラ付けに後味の悪さを感じました。

天才キャラであるがゆえに、凡人には理解できない。真賀田四季はそういうキャラクターだから仕方ないと言えばその通りなのですが、どんな形であれ「理解できない」が読了後も残ってしまうことにモヤモヤしています。

 

真賀田四季は、終始「こいつ何言ってやがる」という印象でした。

そう感じるのは、おそらく作者の狙い通りなのでしょう。作品内でも「天才の考える事は理解できない」という旨の表現が何度か出てきます。

「天才すぎて何を言っているのか理解できないキャラクター」というキャラ付けであり、読者が理解できないということは、そのキャラ付けに成功していると言えます。

 

しかし、私は「理解できないキャラクター」を楽しむことはできませんでした。

日頃小説を読まず、読む本といえば技術書ぐらいなので、「本を読む=何かを知れる」というイメージが強いです。

また、世のミステリー小説がどんなものか存じませんが、私はミステリー小説に対しても「謎を知りたい」「最後はすべて分かってスッキリしたい」と期待している節があります。

そのため、理解できないものが読了後も残ってしまう事を気持ち悪く感じます。

 

一番納得いかないのが犯行動機です。

作中で犀川が思ったように、誰も殺さなくても済む手段を考えることもできたはずです。天才なのですから。

それをしなかった理由は何故なのか。自分で考えてはみるけど、きっと違う。なぜなら自分は凡人で、天才の気持ちなど想像できないから。

結局、考えても分からないものとして諦めるしかない。

それが私には悔しいのです。

 

この物語は、真賀田四季が天才キャラでなければ成り立ちません。

そのため、「すべて分かってスッキリしたい」と思う自分には不向きだったように思います。

 

誰にも感情移入できない

ここまで書いて、私は「理解し共感し感情移入できる主人公格のキャラクター」を物語に求めていることに気づきました。

ですが、この物語の主人公格のキャラクター達(犀川と萌絵、真賀田四季もでしょうか)は個性的すぎて、誰にも感情移入できないのです。

 

この本の持ち主である同居人は「キャラが好き」と言って、このシリーズを全巻揃えています。

おそらく、誰かに感情移入しようというつもりはないのでしょう。

読書が好きな人は、その物語の世界を俯瞰するのが好きなのではないかと考察しています。

私はゲームが好きなので、自分自身が物語の世界に入り込むのが好きなのでしょうね。だから感情移入したがる。

いずれは俯瞰する読み方も楽しめるようになれれば良いな、と思います。

 

総評

面白いか面白くないかで言えば、面白かったといえると思います。

上で「キャラクターに感情移入できない」と述べましたが、それでも、実際に自分も殺人現場に立ち会っているような没入感や緊迫感が伝わってきます。

次は何が起こるのか…とドキドキしながら、次々にページをめくってしまいました。

 

現在、続編の「冷たい密室と博士たち」を読み進めています。

犀川と萌絵が今後どんな事件に巻き込まれ、どう変化していくのか、最後まで見届けたいと思ってます。